物語は、方子が新聞で自分の婚約を知り、ショックを受ける場面で始まる。ハイライトはまず、結婚と幼い長男の急逝。「幸せから悲しみのどん底に落ちていった苦悩」を歌う。舞台で身にまとうのは、方子妃が婚礼で着用した朝鮮王朝の衣装を今回、複製したものだ。
さらに、最も表現に心を砕くのが、敗戦で何もかもを失い、その後、夫とも死別する場面。「屈辱に耐えて」や「守るのも私」のアリアを劇的に歌い上げる。
歌劇中の楽曲は、西洋のメロディーを土台にしつつ、日韓の独特の旋律やリズムを盛り込んだ作品もある。歌詞は全て日本語だ。
ほぼ独り舞台の歌劇だが、コーラスやバレエダンサーなどが出演し、映像なども用いる。作曲や演出、演奏なども含め、韓国人、在日韓国人、日本人の混成チーム。
約10年前から構想した。だが、資金や創作面で壁を感じ、一時は挫折した。しかし、「日韓という二つの古里の和合を願う気持ち」に背中を押されたという。また、歴史の犠牲者として感情を押し殺すしかなかった夫妻の知られざる胸の内を、「心の底から感情を出すオペラで代弁することで、聴き手に強く訴えられるのではないか」と考えた。
また、田は「方子妃の心の軌跡に迫ろう」と、かつての秘書ら関係者をソウルなどに訪ね歩いた。行く先々で、方子妃が韓国の恵まれない子供に手を差し伸べたことが知られており、「尊敬している。日本の人たちにもっと知ってほしい」と励まされたという。
27日午後2時と同5時、初台・新国立劇場中劇場で。(電)03・3366・1229。 |