日韓つなぐ創作オペラ… 在日2世の歌手、田月仙
皇室から朝鮮王朝、方子妃描く

在日韓国人2世のソプラノ歌手、田月仙(チョンウォルソン)が、日韓国交正常化50周年を記念し、創作オペラ「ザ・ラストクイーン」を上演する。

 日本の皇族から朝鮮王朝に嫁いだ李方子りまさこ妃(1901〜89年)の激動の人生を演じる。関係者を自ら取材して物語にした力作だ。(岩城択)

 梨本宮家の方子は、朝鮮王朝の皇太子・李垠りぎんと政略結婚。真実の愛を育んだ夫妻だったが、敗戦で無国籍となった。方子妃は夫の死後、韓国で障害児の福祉に力を入れ、「韓国の母(オモニ)」と慕われるまでになった。日韓関係が険悪な今、田は「両国の和を願った方子妃をオペラを通じて知ってほしい」と力を込める。


  物語は、方子が新聞で自分の婚約を知り、ショックを受ける場面で始まる。ハイライトはまず、結婚と幼い長男の急逝。「幸せから悲しみのどん底に落ちていった苦悩」を歌う。舞台で身にまとうのは、方子妃が婚礼で着用した朝鮮王朝の衣装を今回、複製したものだ。

 さらに、最も表現に心を砕くのが、敗戦で何もかもを失い、その後、夫とも死別する場面。「屈辱に耐えて」や「守るのも私」のアリアを劇的に歌い上げる。

 歌劇中の楽曲は、西洋のメロディーを土台にしつつ、日韓の独特の旋律やリズムを盛り込んだ作品もある。歌詞は全て日本語だ。

 ほぼ独り舞台の歌劇だが、コーラスやバレエダンサーなどが出演し、映像なども用いる。作曲や演出、演奏なども含め、韓国人、在日韓国人、日本人の混成チーム。

 約10年前から構想した。だが、資金や創作面で壁を感じ、一時は挫折した。しかし、「日韓という二つの古里の和合を願う気持ち」に背中を押されたという。また、歴史の犠牲者として感情を押し殺すしかなかった夫妻の知られざる胸の内を、「心の底から感情を出すオペラで代弁することで、聴き手に強く訴えられるのではないか」と考えた。

 また、田は「方子妃の心の軌跡に迫ろう」と、かつての秘書ら関係者をソウルなどに訪ね歩いた。行く先々で、方子妃が韓国の恵まれない子供に手を差し伸べたことが知られており、「尊敬している。日本の人たちにもっと知ってほしい」と励まされたという。

 27日午後2時と同5時、初台・新国立劇場中劇場で。(電)03・3366・1229。


Chon Wolson officilal Website www.wolson.com