海峡のアリア 田月仙(チョン・ウォルソン) ソプラノリサイタル パート5

 

 

海峡のアリア 田月仙(チョン・ウォルソン) ソプラノリサイタル パート5 ・・・・・藤村 貴彦

 田月仙は、我が国の人々に、あまりなじみの薄い朝鮮半島の歌を紹介し、今回のリサイタルでも異なるアリラン3曲が歌われた。この歌手の声の技巧と幅の広さを示すには、充分な物で、改めて彼女の芸の深さを感じたのであった。練りのきいた力強い声で、3曲とも歌い回しを工夫し、完全にアリランを自分の中に消化していたと思う。田は聴き手の心をしっかりとつかんでしまう。オペラのアリアの中では後半のマスカー二のオペラ『カヴァレリアルスティカーナ』より、「アヴェ・マリア」と「お母様も知るとおり」が良かった。田は役になり切ったように歌い、奥深い内面を真実
味を持って的確に表現していたのである。田の艶のある、そして朗々とした声は美しい。
 ピアノは朝岡真木子。しっかりと田を支えており、リサイタルを成功させた大きな力になっていた事は言うまでもない。
 竹島をめぐって、日本と韓国が揺れ動いている昨今の現状。政治に翻弄されることなく、文化交流、民間交流は活発に行われる事を望む。二度と朝鮮半島は「近くて遠い国」にしてはならないのである。田月仙が毎年リサイタルを行う理由はそこにあるような気がする。
 朝鮮半島の二つの国はいまだに凍てついたままだ。分断された悲劇の苦しみは、日本人にはなかなか理解ができない。キム・スン・ナムの歌曲を日本に紹介した私は朝鮮半島に関する本を買いあさった。以後、韓国に何度も足を運んだ。下関からプサンまでのフェリーの旅も楽しい思い出の一つである。海峡の青さは昔も今も変わらない。愛嬌のあるカモメが温かく迎えてくれるのも昔からの光景であろう。歌は人々の心を結ぶ。田月仙の活躍がさらに求められているのである。来年も「トウ・マンナムシダ」(また会いましょう)と少し習った韓国語のフレーズが会場を出ると自然に口から出た。海峡の両国の日誌には、常に異常なしと記されていなければならない。

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Chon Wolson officilal Website www.wolson.com