再会願う歌 届ける
在日オペラ歌手、田月仙(チョン・ウォルソン)さん 渋谷で来月リサイタル
在日コリアンのオペラ歌手、田月仙(チョン・ウォルソン)さんが、来月二日に渋谷でリサイタル「海峡のアリア」を開き、都内暮らす福島県の被災者を招待する。田さんは、朝鮮半島出身者が南北分断で翻弄された苦悩や希望を歌ってきた。故郷に帰れない被災者の痛みを自分の家族に重ね、「少しでも元気になってほしい」と願う。
田さんは、立川市生まれの在日二世だ。一九八三年にオペラ歌手としてデビュー。二〇〇二年のサッカーワールドカップ日韓大会で日韓首脳の前で独唱するなど、「海峡を越えた歌姫」と称された。兄四人が帰還事業で北朝鮮に渡り、母親が苦しんでいたことを著書「海峡のアリア」で告白した。〇七年から同名のリサイタルを年一回開いている。
大震災が起きたとき、エジプトにいた。革命の空気を肌で感じたくて、欧州での仕事に向かう途中に立ち寄った。ホテルのテレビに映った巨大な津波に寒気を覚えた。
田さんは帰国後、車で福島県相馬市に向かう。少女時代、両親が事業に失敗したため、一家は田さんひとりを東京に残し、同市に三年間暮らした。一度だけ現地に母親を訪ねたが、当時の風景などは記憶に残っていない。約三十年ぶりの福島で被災者に「何か歌を届けたい」と思った。
リサイタルのテーマは「祈り」。アヴェ・マリアのほか、「南であれ北であれ、愛する兄弟ではないか」と呼び掛ける「高麗山河わが愛」など、離別した人の再会を願う歌を披露する。最後に「ふるさと」を皆で歌う予定だ。「被災者の皆さんと少しでも痛みを分かち合うことができれば」と話した。
リサイタルは午後七時から、白寿ホール(渋谷区富ヶ谷一)で。問い合わせはカラフネット=電03(3366)1229=へ。
20111124東京新聞 |