オペラ、日韓交流が盛況
サッカーW杯で弾み
韓国語の創作歌劇を日本人が上演したり、イタリア歌劇を共同制作するなど、日韓のオペラ交流が活気づいている。サッカーのワールドカップ(W杯)の年を文化交流にもあてようと、日本の文化庁と韓国文化院が合意。個人レベルで細々と続いてきた両国の交流の蓄積が、時を得て一気に開花しそうだ。
韓国の古典文学「春香伝」を原作とする日韓の創作オペラ二作が横浜、東京で“競演”する。「春香伝」は李朝時代の十八世紀半ばの韓国南西部、全羅北道南原(ナムォン)を舞台にした恋物語。階級制度が厳しかった時代の庶民の夢、官僚支配への風刺などを巧みに描いた展開が時代を超えて支持され、パンソリ(唱劇)や映画、演劇、ミュージカルなど様々な創作に姿を変えた。
東京で韓国語公演
韓国ではヒョン・ジェミョン作曲の歌劇「春香伝」の人気が高い。ベセト・オペラ団が昨年九月、ソウルで行った新演出には日本から在日コリアンのソプラノ、チョン・ウォルソン(田月仙)が春香役、テノールの吉田伸昭が準主役級の房子役、西本眞也が指揮者として参加した。
東京都民オペラ・ソサエティとベセトは、共催でこのオペラの日本公演を企画。初日が韓国人、二日目が日本人のキャスト、合唱団も日韓混成だが、全員が韓国語を使う。
一方、今年九十八歳になる高木東六が一九四七年に作曲した日本語歌劇「春香」(村山知義台本)の完全版復活上演は四月十九、二十一の両日、横浜の神奈川県民ホールで行われる。韓国国際交流財団が二万ドルの補助金を出し、日本の文化庁も二国間交流の助成対象とした。
高木の「春香」は三九年ころ一度完成しながら楽譜が戦災で消失。戦後、記憶を頼りに再現した楽譜は「韓国色が後退、パリ留学でフランス近代音楽の影響を受けた高木先生の“おしゃれ”な音楽が前面に出ている」(本名)。
いったんは機運停滞
高木版「春香」抜粋も歌ったことがあるチョン・ウォルソンは南北にルーツを持ち、八三年のデビュー当時から韓国歌曲を手がけ、日韓を往復してきた。五月十一日には歌曲のガラコンサート「海を越えて」も、東京オペラシティコンサートホールで企画した。「日本と韓国の芸術歌曲を集めた演奏会に日本のオーケストラが出演するのは史上初めて」。日韓のオペラ歌手が出演し、キム・ドッキ指揮の東京都交響楽団、日韓混声合唱団と共演する。
日本、韓国はともに西洋音楽の輸入国として欧州に目を向けることはあっても、共
同でオペラを制作する視点は欠け、レストラン経営者の沖晃司氏によるメセナ活動など、個人レベルでの交流にとどまっていた。昨年は日本の歴史教科書問題に加え、日韓共同キャストによる歌劇上演の試みに手をつけたばかりだった沖氏が十一月に急死したことも、両国のオペラ関係者には痛手となった。
(略)
【図・写真】昨年9月、ソウルで行われた歌劇「春香伝」。チョン・ガプキュンのモダンな演出が話題を呼んだ