38度線を越えた歌姫(オペラ歌手)  田 月 仙 さん

 

 昨年リリースされたアルバムcd「夜明けのうた イムジン江」(ビクターエンタテイメント VICC-60128)が評判だ。

日本と韓国北朝鮮(朝鮮民衆主義人民共和国)に歌曲をそれぞれの言語で歌った〉−魂のこもった歌声に感動しました。歌は国境を越えることができます

(ありがとうございます。日本・韓国・北朝鮮の歌が一つのアルバムに収まったのは、初めてのことだと思います。私は日本生まれで、両親は韓半島(朝鮮半島)出身なんです。その”私自身の魂の歌”として、三カ国の歌曲を収録しています」

−「高麗山河わが愛」も入っていますね。

「これは、私が偶然出会った曲なんです。『南であれ北であれ/いずこへ住もうと・・・・・・』(盧光郁詞)という、素朴だけどとても訴えるものがある歌詞を見た時、”これは、私自身が歌い継いでいく歌だ”と思ったんです。なかでも、在日韓国・朝鮮人は 涙を流して聴いてくれます。

あらためて一つの歌が国境を越えて、多くの人々に訴えることができるのことを実感しました」

国境は国を分断しても人の心までは分断できません。国は違ってもだれにでも平和や愛を求める気持ちがあります

−ことろで、田さんは二期会のオペラ歌手ですが、オペラの魅力とは。

 「オペラは総合芸術です。そこにはオーケストラも舞踊も演劇も歌も、全部あります。オペラは全体で表現します。あえて言えば、肉体が楽器。だから、 前進全霊で歌わないといい歌は歌えません。難しいのですが、それだけ自分が出せるし、やりがいのあるものです。」

−音楽活動のなかで、信条されていることは。

「国境は国を分断しますが、人の心まで分断することはできません。だれにでも、平和や愛を求める気持ちがあります。そういう気持ちを、私は歌を通じて、あらゆる人たちと分かち合いたいのです。ですから、歌う時には、一人の人間として、すべての人に対して歌うように心掛けています。」

ー「故郷は日本、祖国は韓半島」と言われてますね。

 「私は、日本も韓国・北朝鮮も同じように愛しています。私が、特に最近、恵まれているなと思うことは、在日韓国人だから日本と韓半島の双方の良い部分を見つけることができたということです。そして、国境が人間を隔ててることの愚かさを実感できることです。人間とは何かについて敏感になります」

−この秋、韓国でリサイタルを開かれるそですが。

 「韓国でのCDの発売を記念して、十一月二十一日に韓国の世宗(セジョン)文化会館で行うことになっています。在日韓国人がこのステージで歌うのは初めてです。日本の歌のため、以前は禁止されていた『夜明けのうた』も歌う予定です。歌や芸術を通じて、いける舞台にしていきたいとおもいます。」

 

田さんは「父は韓国籍、母は朝鮮籍。私の家族も離散家族です」と語る。「平和を目指して”私自身の魂の歌”を歌い続けたい」とも。田さんは子ども時代から日本名を名乗らない。ありのままの自分で真っすぐに生きてきた。 そして全身全霊で歌う −。歌声が心の奥に響く理由もそこにあるのだろう。(吉)

     

チュン・ウォルソン 東京生まれ。

桐朋学園短期大学芸術科・同研究科を卒業。1985年オペラデビュー。オペラ舞台の傍ら、日本と韓国・北朝鮮の歌曲を歌い続けた。85年にピョンヤン、94年にソウルを訪れて、在日初の南北公演を果たし、「38度線を越えた歌姫」と話題に。南北統一への願いを込めた歌曲「高麗山河わが合い」は感動を呼んでいる。二期会会員