南も北も祖国…在日韓国人歌手
東京在住のオペラ歌手、田月仙さんは北朝鮮、韓国の両国で公演した経験を持つ。「朝鮮半島すべてが祖国」と語る田さんは、「ようやくここまでこぎつけた。今回は本当にいいムードで進んだ」と会談の模様を伝える衛星放送を食い入るように見つめた。
―南であれ北であれ
いずこに住もうと
みな同じ
愛する兄弟ではないか
田さんは十一日、首脳会談を控えて東京都内で開かれた「ワンコリアフェスティバル」で、「高麗山河わが愛」を歌い上げた。一九九四年にソウルで初めて聞き、譜面を起こした。後に在米同胞の作曲とわかったこの曲を、リサイタルでは必ず歌う。
田さんは在日二世。両親とも韓国・慶尚南道出身だが、共産主義に理想を感じた父親の田碩万さん(72)ら一家は朝鮮籍のままだった。碩万さんは韓国とは遠ざかり、十年余り前に、両親が相次いで死去した時も帰らなかった。母親の金甲仙さん(75)は、帰還運動で北朝鮮に渡った兄と離れ離れになった。
田さんは八三年にデビュー。八五年に北朝鮮の世界音楽祭に招かれ、金日成主席(当時)の前でオペラを演じた。
幼いころに遊んでくれたいとことも再会、「祖国の土を踏んだ」と実感した。
しかし、韓国や世界の舞台で活躍するには、朝鮮籍では難しかった。「自分の思いとは別次元で選択を迫られ」、九三年に韓国籍を取得、翌年にはソウルでの公演が実現した。
共産主義に失望した碩万さんは韓国籍を取得したが、甲仙さんは朝鮮籍のまま。二人とも首脳会談のニュースを見て涙が止まらなかった。「五十年遅過ぎた」
田さんは、同胞たちの希望を「高麗山河わが愛」の歌詞に込める。「この歌を北朝鮮の人たちにも聞いてもらいたい」という夢が大きく近付いてきた。