幻のオペラ「春香」、52年ぶり復活 日韓朝友好の礎に −来月28日、東京で公演 

 

 ◇国超え歌手ら集う−−来月28日、東京で手作り公演

 日韓交流を願って作曲家の高木東六さん(95)が在日韓国・朝鮮人の依頼で終戦後に作曲し、1948年に東京・有楽座で上演されたオペラ「春香(チュンヒャン)」が52年ぶりに再演される(5月28日午後4時、東京・カザルスホール)。戦後の友好の礎をもう一度見直し、日本と韓国、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の友好、そして南北融合を目指そうという在日ソプラノ歌手、田月仙(チョンウォルソン)さん(41)らによる手作りの公演だ。【梅津時比古】

 「春香」は李朝のハングル小説で、作者不詳。キーセンの娘・春香と名門貴族の息子・夢竜(モンヨン)がふとした出会いから恋に落ちる。しかし身分の違いに加えて、悪代官が春香を手ごめにしようとし、離れ離れになる。操を守り通した春香は処刑されることになるが、当日、乞食(こじき)にふんした夢竜が春香を救い出すという物語。朝鮮半島では知らない人はいない、いわば日本の「忠臣蔵」のような存在だ。

 高木さんに作曲を委嘱したのは、当時の在日朝鮮人。高木さんは「朝鮮幻想」という曲もあり、朝鮮半島の音楽に詳しかったからだ。「これからは両国の心の交流が必要だと思った」と高木さんは快く引き受けた。作曲に充てる1年半の生活費を援助するという好条件だった。初演直前の48年9月に南北に分断されたが、同年11月の初演は、上田仁指揮、東宝交響楽団の演奏で当時、永田絃次郎の日本名で活躍していた人気テノールの金永吉さんやソプラノの大谷冽子さんらが主演し、20日から26日まで一日2回計14回公演が超満員の大成功を収めた。その後、在日側も南北に分かれ、作曲を委嘱した中心メンバーが北側になったこともあり、再演されないまま“幻のオペラ”となった。

 ソプラノの田月仙さんは「このオペラは在日韓国・朝鮮人の間で語り継がれていた。公演を見た父から話をよく聞き、いつか歌いたいと思っていた」と言う。昨年、高木さんの作品を集めたコンサートに出演した際、高木さんに話したところ「ぜひ再演してほしい」と言われて決意し、日韓の歌手に声をかけた。多くの人が快く協力してくれ、ほぼ手弁当でピアノ伴奏のハイライト版を衣装・演出をつけて上演するまでにこぎつけた。田さんは「終戦直後の混乱のなかで、友好を目指した人々の情熱が、作品を通して強烈に伝わってくる。この情熱を私たちも受け継ぎたい」と熱を込める。高木さん自身も当日は第2部でピアノを弾く予定だ。

 

■写真説明 高木東六さん(左)と田月仙さん