平和への願い歌に託す 田月仙さん、来月に公演
在日コリアン二世のソプラノ歌手、田月仙(チョン・ウォルソン)さん(三八)が十月十三日、千代田区の紀尾井ホールで、リサイタル「薔薇(ばら)物語―ロマン・ド・ラ・ローズ」を開く。花にまつわる歌を、日本語や韓国語、ロシア語など、六つの国の言葉で歌うほか、スペイン舞踊を交えながら平和への思いを歌に託す。
東京生まれ。両親が韓国南部の慶尚南道出身で、民族学校に通った。子どものころから、音楽や歌、踊りが好きで音大を志すが、「民族学校では高校の卒業資格がない」と言われた。
だが、桐朋学園短大には入学を認められ、オペラに出会う。「オペラは総合芸術。国境を越えて、感動を共有できる」と思った。
オペラの本場、イタリアへの留学も考えたが、朝鮮籍のために断念せざるをえなかった。
いつも、「分断」の影がついて回った。
一九八五年、朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)・ピョンヤンで開かれた世界音楽祭に出演。九四年には、韓国・ソウルのオペラハウスで「カルメン」の主役を務めた。
在日コリアンとして初めて、三八度線の両側で公演した。
出会った人々に、客席から寄せられる拍手に、「祖国には、南も北もない」と、実感した。が、同時に「分断」という現実を改めて痛感する。
帰国後、知人がソウルの民族酒場を撮ったビデオを見ていたとき、ある歌の歌詞が胸に響いた。
# 南であれ北であれ
いずこに住もうと皆同じ 愛する兄弟ではないか
「高麗山河わが愛」。分断前、現在の北朝鮮で生まれ韓国で育った、米・ワシントン在住の盧光郁(ノ・グァンウク)さんが詞を作り、曲をつけた。
より自由に活動するため、韓国籍を取得したが、「祖国は一つ」という思いは変わらない。思いを伝えるため、できる限り多くの場で「高麗山河」を歌う。
朝鮮半島だけではない。リサイタルの第二部では、平和にこだわる。「分断で、人がいがみ合うことに胸を痛めてきたから」だ。
「戦いではなく、人の命、手を取り合うことが大切だと呼びかけたい」
問い合わせは、二期会(電話3796・4711、午前10時―午後6時)へ。
【写真説明】
リサイタルを控え、練習に励む田月仙さん=渋谷区内のスタジオで