オペラは芸術の集大成だから奥深い魅力があります

 

逢坂 チョンさんは、お生まれも育ちも日本でしょう?

チョン ええ。そうです。

逢坂 あちらの言葉は、おできになりますか?

チョン ええ。私たちの世代は3世ですから、日本に住んで生活をしていますと

知らなくてもすんでしまうんですけれど、私はそれではいやだと思って、勉強しま

したので、話せるようになりました。

逢坂 小さい頃から、音楽方面に進みたいと思っていらしたんですか?

チョン 両親が芸術に興味がありまして、幼稚園の頃からピアノを習わせてくれましたので、

漠然とそう思っていたんです。

逢坂 ピアノもお弾きになれるんですか?

チョン 大学に入ったとさはピアノで受けたんです。

逢坂 ああ、それじやかなりの腕ですね。

それで途中から、声楽に変わられたんですか?

チョン ええ、2年くらいは両方やっていまして、あるとき声楽の試験でトップになつたんです。

それで、まわりの勧めもありましたし、自分も歌の方が向いているかと思いまして

逢坂 それでオペラをやろうと思われた?

チョン 大学に入って初めてオペラを観まして、歌も滴りも演技も

オーケストラも、私の好きなものがすべて入っている。

これこそ総合芸衝だと感動しました。

逢坂 それで卒業なさつてから、二期会に入られたわけですね。

でも、二期会に入るのって、難しいんでしょう?

チョン そうですね。芸大、国立音大、武蔵野音大、桐朋といった音大の声楽科

の優秀な人が皆さん受けに来ますから、倍率というよりはレベルが高いですね。

逢坂 それをクリアなさつたんだからすご・いな。

でも、オペラの勉強を本格的になさる方って、卒業後イタリアに行かれる場合も多いですよね。

チョン 私の場合はその頃は朝鮮籍だったので、イタリアに行けなかったんです

逢坂 ああ、そういうことがあるんですね。それで海外活動をするために、

籍に変わられたんだ。

チョン ええ。91年だったと思います。

逢坂 その後、イタリアには、行かれましたか?

チョン ええ。レッスンと観光を兼ねて本当に短期間ですけれど。

逢坂 やはり得るものがありました?

チョン もう、空気が、人が、全部違うという感じですよね。

音楽が生活に浸透しきつているという募囲気がありますしね。

体格なんかもすごいでしょう(笑)。

逢坂 チョンさんは、とても華看でいらっしやいますが、

それでよくあのオペラの発声ができますよね。

チョン ええ。昔は、歌い手の体は楽器なのだから、

共鳴させるために太った方がいい声が出ると思われていたようです

が、今はオペラ歌手にも細い人はいますね。

要は筋肉の使い方だと思います。

お腹の底から声を出すということですね。

逢坂 あれは、かなりのエネルギーが必要でしょう?

 衣裏も重いそうですし。

チョン そうなんです。オペラを全幕通

しでやると、何キロか体重が減るという方もいます。

私の場合は稽古に入ると、体力をつけるために栄養をとらなきやと

思って、かなりたくさんいただくんです

が、絶対に太らないですね。

蓬坂 オペラも、見た目の華やかさと違

って、かなりハードな肉体労働ですね

(笑)。

 

南北雨・万で歌えてl艮かった

早く統−国家になってほしい

 

逢坂 チョンさんは、お顔立ちがはっき

りしていらつしやるから「カルメン」が掛合いそうですね。

チョン 私はソプラノですし、カルメンはメゾ・ソプラノが歌うことが多いので

すが、自分の中でも「何だかいつかカルメンをやりそうだぞ」という予感があっ

たんです。

逢坂 その予感の根拠は(笑)?

チョン 朗年に本格的にデビューする前に、スペインフェスティバルというのが

あって、そこでスペイン歌曲を歌ったり、85年に初めてオペラで主役をもらつたの

がラヴエルの「スペインの時」ですし、「なんだかスペインに嫁があるなあ」と

ずっと思っていたんです。

逢坂 そして94年に韓国のソウルで、その予感が的中して「カルメン」をなさったんでしたね。

チョン ええ。ソウル定都600年を記念して建てられた、アジア最大の素晴らしい

オペラハウスのオープニングセレモニーに招かれたんです。

逢壊 そのときに両国で歌う夢を達成されたんですね。

チョン 85年には北朝鮮ピョンヤンでの「世界音楽祭」に招かれ、当時の金日成

主席の前で歌いましたので、いつかは南でもと考えていました。

逢坂 韓国の反応は、いかがでしたか?

チョン それが本当に熱狂的なんです。

日本では二期会の公演でも連続では2、3日しか打てないんですが、

この公演は5日間、それが満席なんですよ。

歩道橋にまで「カルメン」って垂れ幕がかかっていたりなんかして(笑)。

逢坂 一般の人なら、訪れることさえ難しいふたつの国で、実際に

歌を通して両国の文化や、人にふれてみられたんですね。

チョンさんにとっては祖国である南北が、いまだに断絶している

ことについてどう思われましたか? 

チョン う−ん。やはり、・小さい頃から思想が徹底的に違うことを

教えられてきていますし、経済格差の問題などもありますから、

統一したからといって、簡単にはいかないということは身をもつて感じましたね。

逢坂 ドイツもそうでしたからね。経済格差の閉塞は深刻ですよ。

今の韓国は本当にすごい。

昭和40年代の日本という感じで、どんどん経済成長しています。

昔は粗悪品で有名だった、メイド・イン・ジャパンが、今は海外で珍重されている

ように、メイド・イン・コリアのものも、どんどんレベルがあがっていますからね。

経済格差は、ますます広がるかもしれない。

チョン でも、やはり血って言うんでしょうか。

南も北も、そして外国で暮らしている私たちも、みんな同じ民族なんだなつていう

実感も行く先々で感じました。

だつて、ひとりひとりは普いい人なんですもの。

だから、いつかはわかりあえる日がくるんじやないかという希望を、

もち続けたいですね。

逢坂 ヨーロッパでは、違う民族がひとつの国に同居していることから、

しばしば紛争が起こりますが、韓国と朝鮮は同一民族ですからね。年月をかければきっと

いつか統一できると、僕は思います。

 

フラメンコを始めて3年半

やり始めたかには本気です

 

逢坂 固い話になりましたが、「カルメン」の韓国公演では、フラメンコを踊ら

れたんですよね。去年の日本でのリサイタルのときには、引き続き「カルメン」

をやられたでしょう。あれは僕も覿に行きましたよ。

チョン ありがとうございます。本当のオペラの演出では、カルメンはホセとの

二重唱でカスタネットを持つところくらいしかフラメンコの味が出せないんです。

 あのリサイタルでは、煙草工場の場面を全部フラメンコでやりたいと思い、

岩崎恭子先生に相手役を引き受けていただいてそれを実現することができました。

逢坂 まさに、〃踊るカルメン”という

 感じでしたものね。でも普通、オペラの

方がカルメンをやる場合は、フラメンコを習ったりするんですか?

チョン いいえ0簡単な立ち居撮る舞いやカスタネットさばきを教えてもらうだ

 

逢坂 その予感の根拠は(笑)?

チョン 朗年に本格的にデビューする前に、スペインフェスティバルというのが

あって、そこでスペイン歌曲を歌ったり、85年に初めてオペラで主役をもらつたの

がラヴエルの「スペインの時」ですし、「なんだかスペインに嫁があるなあ」と

ずっと思っていたんです。

逢坂 そして94年に韓国のソウルで、その予感が的中して「カルメン」をなさったんでしたね。

チョン ええ。ソウル定都600年を記念して建てられた、アジア最大の素晴らしい

オペラハウスのオープニングセレモニーに招かれたんです。

逢壊 そのときに両国で歌う夢を達成されたんですね。

チョン 85年には北朝鮮ピョンヤンでの「世界音楽祭」に招かれ、当時の金日成

主席の前で歌いましたので、いつかは南でもと考えていました。

逢坂 韓国の反応は、いかがでしたか?

チョン それが本当に熱狂的なんです。

日本では二期会の公演でも連続では2、3日しか打てないんですが、

この公演は5日間、それが満席なんですよ。

歩道橋にまで「カルメン」って垂れ幕がかかっていたりなんかして(笑)。

逢坂 一般の人なら、訪れることさえ難しいふたつの国で、実際に

歌を通して両国の文化や、人にふれてみられたんですね。

チョンさんにとっては祖国である南北が、いまだに断絶している

ことについてどう思われましたか? 

チョン う−ん。やはり、・小さい頃から思想が徹底的に違うことを

教えられてきていますし、経済格差の問題などもありますから、

統一したからといって、簡単にはいかないということは身をもつて感じましたね。

逢坂 ドイツもそうでしたからね。経済格差の閉塞は深刻ですよ。

今の韓国は本当にすごい。

昭和40年代の日本という感じで、どんどん経済成長しています。

昔は粗悪品で有名だった、メイド・イン・ジャパンが、今は海外で珍重されている

ように、メイド・イン・コリアのものも、どんどんレベルがあがっていますからね。

経済格差は、ますます広がるかもしれない。

チョン でも、やはり血って言うんでしょうか。

南も北も、そして外国で暮らしている私たちも、みんな同じ民族なんだなつていう

実感も行く先々で感じました。

だつて、ひとりひとりは普いい人なんですもの。

だから、いつかはわかりあえる日がくるんじやないかという希望を、

もち続けたいですね。

逢坂 ヨーロッパでは、違う民族がひとつの国に同居していることから、

しばしば紛争が起こりますが、韓国と朝鮮は同一民族ですからね。年月をかければきっと

いつか統一できると、僕は思います。

 

フラメンコを始めて3年半

やり始めたかには本気です

 

逢坂 固い話になりましたが、「カルメン」の韓国公演では、フラメンコを踊ら

れたんですよね。去年の日本でのリサイタルのときには、引き続き「カルメン」

をやられたでしょう。あれは僕も覿に行きましたよ。

チョン ありがとうございます。本当のオペラの演出では、カルメンはホセとの

二重唱でカスタネットを持つところくらいしかフラメンコの味が出せないんです。

 あのリサイタルでは、煙草工場の場面を全部フラメンコでやりたいと思い、

岩崎恭子先生に相手役を引き受けていただいてそれを実現することができました。

逢坂 まさに、〃踊るカルメン”という

 感じでしたものね。でも普通、オペラの

方がカルメンをやる場合は、フラメンコを習ったりするんですか?

チョン いいえ0簡単な立ち居撮る舞いやカスタネットさばきを教えてもらうだ

けです。

逢坂 それなのに、チョンさんはどうして、基礎から習おうと思ったんですか?

チョン 自分がオペラを観ていてイヤだったんです。

立ち居振る舞い、スカートさばきひとつとっても、オペラの歌手が

やると「違うなあ」って思っちやう。様にならないというか付け焼き刃というか、

もう全然違うんですよ。だから自分がカルメンをやるときには、きちんとフラメンコ

の踊れるカルメンになりたいと思ったんです。

逢坂 ふ−ん、完璧主義なんですね。それで、フラメンコを実際にやってみてい

かがでしたか?

チョン 難しいんですが、奥が深くて面白いですね。

リズムなんかだと私は一応音楽理論で考えてしまうので、「なんで

こうなるの?」って真面目に考え込んだこともあります。

逢坂 フラメンコのリズムは、楽譜にするのが非常に難しいですからね。

チョン そうなんです。でも、体に入ってしまうと抵抗感がないのね。

逢坂 リズムが難しいのは、踊りもそうだけど、歌もそうでしょう。クラシック

の方がカンテをお開きになると、どう思われるんでしょう?

チョン カンテは韓国のパンソリに似ていますね。

恨(ハン)っていうんですけれど、自分の人生をろうろうと歌いあげ

るんです。

逢坂 ああ!開いたことがあります。

壮大な物語を、日本の浪花節みたいに歌うんですよね。

僕も衛星放送でパンソリを開いたときに、カンテに似ていると思いましたよ。

チョン そうなんです! そっくりでしょ。

だから韓国にはフラメンコが安け入れられる土壌が揃っていると思うんですよ。

すごく熱情的で国民性も似ていますしね。

フラメンコ人口もいることはいるんだけど、まだ少数派です。

パンソリがあるから韓国では、フラメンコがブレイクしないんだという説もあるんですけれどね(笑)。

逢坂 ああ、そうか。なるほどね(笑)。

チョンさんは、フラメンコのレッスンを、どのくらい続けておられますか?

チョン もう、3年半くらいでしょうか。

ょほど忙しいとき以外は、週にl回はコンスタントにレッスンしていますが、

私のフラメンコはまだまだです。

逢坂 週に↓回はすごいなあ.かなり本格的ですね。

チョン 最初は個人レッスンをしていただいて、基磋をやったんです。

カスタネットの使い方とかもわからなかったですし。

逢坂 それで、今はどんなレッスンを。

チョン 今はプレリア、アレタリアス、ティエントを練習しています。

逢坂 当初の願いだった「カルメン」を、「踊るカルメン」として実現されたわけ

ですが、それでもフラメンコのレッスンは、続けるおつもりですか?

チョン ええ、そうですね。なんとかオペラとフラメンコの接点を見つけたいですね。

私でなければできない何かをやりたいなと思っているんです。

蓮壕「カルメン」以外に、どんなものができそうですか?

チョン 古典のオペラでは難しいかもしれませんが、創作物とかね。たとえば「血

の婚礼」なんかは、なんとかできるんじゃないかなと思っているんです。

逢坂 それは面白そうだな。ガデスがカルメンをフラメンコで創作したように、

チョンさんもオペラとフラメンコを、無理なく舞台に乗せられるでしょう。

チョン 私がやる以上、歌って芝居してフラメンコも全部自分で踊って、

という舞台にしたいんです。

逢坂 ただ、そうなると相手役が難しいね。

歌が歌えなければいけないし。小島章司さん

はたしか、音大の声楽科卒ですょ。

チョン そろノですか。最近、歌われていますか?

逢坂 イヤ、開いたことないなあ(笑)。

でも、小島さんにもちかけてみたら、面白いかもし

 れないですよ。でもオペラの人に、これからフラメンコを本格的に

レッスンさせるのも、

フラメンコの人にオペラの勉強をきせるのも、かなり難しいだろうな。

チョン でも、やはり相手役も踊って歌つてくだきらないと物語にならないでしょう(笑)?

逢坂 その難題をなんとかクリアして、ぜひとも実現させてくださいね。上演されるときは必ず観に行きますよ。

 

一服一筆

 

 オペラ歌手というと、つい成風堂々とした体格の人を想像してしまうが、

チョンさんはごくふつうの体つきの女性である。どこからあのような、負か

な声lが生まれてくるものか、不思議に思ってしまう。

話す声もふつうというか、むしろ低いトーンなので、初めて会った人はオペラ取手と気づかない

だろう。しかし目の輝き、体からにじみ出る雰囲気は、やはりすぐれたアーティストのものだ。

今後も、政治的側面とは異なる文化的な次元で、悲願達

成に尽力してほしい。 

   (剛)

 

             桝成 l城智子

             撮影 小平捷二